父と子の深遠な絆。──映画「大いなる不在」
2024年 08月 07日
亡くなった父との共通項もあり、気になっていた「大いなる不在」を鑑賞。
小さい頃に自分と母を捨てた父が警察に捕まった。
連絡を受けた卓(たかし)(森山未來)が、妻の夕季(真木よう子)と共に
九州の父のもとを訪ねると、父・陽二(藤 竜也)は認知症で別人のようになっていた。
しかも父が30年以上前に再婚して一緒に暮らしているはずの義母・直美(原 日出子)は
行方不明になっている。
家族を捨ててまでして結ばれた二人に何があったのか。。。
父の家に残された大量のメモや手紙、父の知人からの話を通して、
卓はそれまでの二人の人生をたどっていく。。。
サスペンスタッチで構成されたストーリーは、過去(陽二が認知症を発症する前)と
現在(発症して施設に入所後)を交互に織り交ぜて語られていく。
ジグソーパズルのように、絡み合った謎が少しずつ解き明かされていく。
大学教授だった陽二は大学を退官してからも趣味の無線作りに傾倒し、
語り口も理路整然としたしっかりとした文化人だった。
偏屈で変わり者のところもあるが、スーツ姿でビシッと決めた姿はインテリジェンスな
雰囲気を醸し出し、周囲からも「先生、先生!」と崇められる。
そんな彼が、認知症という病におかされ、
自分でもどうにもならないほどにこわれていく。。。
それが認知症の逃れられない現実なのだ。
藤竜也が演じる陽二はあまりにも格好よすぎるのだけれど
この主人公にどうしても亡くなった父の姿が重なって涙なくしては観られなかった。
陽二と同じように大学教授だった父も認知症を患って
自らの世界に入り込み、どんどんとこわれていった。。。
認知症の家族を介護するその家族の大変さは想像を絶するものがある。
ストーリーの中で明らかになっていったことは、陽二が卓の母と結婚するずっと以前から
直美一人を想い続けていたこと。。。卓にとっても母親にとっても残酷すぎる話だ。
幸いにもうちの父にはそのような想い人はいなかったようだが、
研究一辺倒の真面目な青年が、一人の女性を想い続けてラブレターを送り
彼女の故郷をアテもなく歩き回ったというロマンティックな側面も描きつつ
家族に対しては理屈っぽい持論を展開する偏屈オヤジ。。。
それがだんだんと少しずつ軋み、ちょっとずつこわれていく。。。
そのようなひとりの人間の姿を演じ分ける藤竜也の演技がリアルすきてこわいぐらいだった。
名優アンソニー・ホプキンスをも彷彿とさせる。
そして感情をほとんど表に出さないで喜怒哀楽を表現する森山未來がやはり巧い。
30年以上も連絡をとっていなかったのに、親子の絆はそれ以上に深くて強いのだ。
終盤、彼は失われた時間を取り戻すべく、ある選択をする。
それがどのような結果を招くかは想像にゆるくないが、
それが彼の選択ならそれもよいだろう。
それにしても直美はどこへ行ってしまったのだろう?
大恋愛を経て30年以上もの結婚生活を送ってきた二人なのに
夫が認知症になって自分のことが少しわからなくなったぐらいで
遠ざかってしまいたくなるほど、彼女の愛は弱いものだったのだろうか。。。
ここらへんに監督の若さ(?)を感じてしまったのも事実。。。
今の日本において夫婦の一人が認知症になったからといって
(たとえ自分に持病があったとしても)、相手を一人にして家を出るような人は
果たして本当にいるのだろうか。。。
「もういいよ!自分は大丈夫だから」という気持ちが患者本人にあったとしても
愛する人を一人残して去ることなど決してできないように思う。。。
深く愛していればなおさらだろう。
まぁ、それこそが、タイトルの「大いなる不在」につながっていくキーワード
なのかもしれない。。。
オススメ度:☆☆☆☆★(星4.5)。
余計なことを盛り込み過ぎて話をわかりにくくしている部分がマイナスポイント。
が、二人の演技の素晴らしさを加味して、敢えて4.5を進呈。
認知症を正面から捉えているところも評価のポイント。
この病気は決して他人事ではないこと、いつ自分や家族がかかってもおかしくないことを
肝に銘じておくべきだろう。。。
それにしても隣の席にいたオヂの光るスマートウォッチには参った(💢)!!
「シアターモード」がついていないのか、とにかく光る(💢)。
ついていないスマートウォッチはカバンの中にしまうとか、
策を講じてもらいたい。
せっかくのシリアスな面白い作品なのに、注意を逸らされて台無しだった💢。。。
by forestkoro1015
| 2024-08-07 11:23
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